前回の記事では、少額訴訟は「裁判ライト味」ではなく、普通に裁判だったという話を書きました。

少額訴訟。
名前は少しやさしそうです。
でも、後ろに付いているのはしっかり訴訟です。
お試し版の裁判。
裁判ミニ。
裁判チョコ味。
そんな雰囲気で近づくと、意外とちゃんとした裁判が待っています。
今回は、少額訴訟の限界と、本人でやるときの現実について書いてみます。
少額訴訟は魔法の制度ではない
少額訴訟は、便利な制度です。
ただし、万能ではありません。
名前がコンパクトだからといって、
これで全部スカッと解決!
という魔法の制度ではありません。
裁判所は、怒りを浄化してくれる温泉ではありません。
受付で、
怒り一名様ですね。露天風呂へどうぞ。
と言ってくれるわけではありません。
裁判所が見るのは、基本的には請求と証拠です。
「どれだけ腹が立ったか」
「どれだけ相手が変だったか」
「どれだけ所長が険しい顔をしたか」
これらは、人間的には大事ですが、手続上は中心ではありません。
少額訴訟で大事なのは、
何を請求するのか。
いくら請求するのか。
なぜ請求できるのか。
それを何で示すのか。
です。
ここがぼんやりしていると、少額訴訟にしても苦しくなります。
相手が争ってくると、普通に忙しい
少額訴訟は、比較的シンプルな手続です。
しかし、相手が争ってきた場合、思ったより手間がかかることがあります。
書面を読まなければならない。
反論を考えなければならない。
証拠を整理しなければならない。
期日に出なければならない。
「簡単そう」と思って始めたら、途中で、
あれ、これ普通に仕事では?
となる可能性があります。
本人訴訟とは、原告であると同時に、事務員であり、コピー係であり、郵便係であり、ファイル整理係であり、経理担当であり、メンタル担当でもあります。
しかも全部無給です。
ブラック企業もびっくりのワンオペ体制です。
所長だけが、報酬を要求します。
おやつです。
本人訴訟の最大の敵は「不安」
本人で手続を進めるとき、最大の敵は相手方だけではありません。
むしろ、最初に立ちはだかるのは不安です。
「これで合っているのか」
「書き方は間違っていないか」
「裁判所に怒られないか」
「相手が変なことを言ってきたらどうしよう」
「自分だけ浮いていないか」
「所長、助けて」
所長は助けてくれません。
見守るだけです。
たまにおやつを要求します。
ただ、実際にやってみると分かるのは、手続は一つずつ進むということです。
訴状を書く。
必要な書類を用意する。
裁判所に提出する。
補正があれば直す。
期日が決まる。
相手から書面が来る。
読む。
必要なら反論を考える。
一つ一つは、決して魔法のような作業ではありません。
ただ、慣れていないので怖い。
これは、初めての場所で電車を乗り換えるのに似ています。
路線図を見る。
改札を探す。
ホームを確認する。
本当にこの電車で合っているのか不安になる。
乗ったあとも、途中で逆方向ではないか疑い始める。
本人訴訟も、これに近いです。
違うのは、目的地が「判決」だったりすることです。
駅名としては少し重い。
少額訴訟に向いているかもしれないケース
少額訴訟を検討する場合、向いている可能性があるのは、たとえば次のようなケースです。
- 請求金額が比較的小さい
- 金額の計算がある程度はっきりしている
- 相手方が誰か明確である
- 契約書、明細、メール、通帳などの資料がある
- 争点があまり複雑ではない
- まず自分で整理してみる気力がある
逆に、事実関係がかなり複雑だったり、法律上の争点が重かったり、相手方との関係が深刻にこじれている場合は、専門家に相談した方がよい場合もあります。
ここは無理をしない方がいいです。
本人訴訟は、できることと、無理をしてはいけないことの見極めが大事です。
素人が包丁を持って料理することはできます。
でも、心臓手術はやめた方がいい。
同じ「切る」でも、だいぶ違います。
まとめ:少額訴訟は怒りの出口ではなく、整理の到達点
少額訴訟は、泣き寝入りしないための選択肢になり得ます。
ただし、それは怒りをそのまま投げ込む箱ではありません。
少額訴訟は、整理した事実を持ち込む手続です。
- 請求額を確認する
- 相手方を確認する
- 資料を集める
- 時系列を作る
- 証拠に役割を与える
- 何を求めるのかを明確にする
ここまで来て、ようやく少額訴訟という選択肢が現実味を帯びてきます。
制度は、知っている人だけのものではありません。
でも、使うには準備が必要です。
少額訴訟は、怒りの必殺技ではなく、
地味な準備を積み上げた先にある手続
だと思います。
そして、本人訴訟をやってみて分かったことがあります。
原告は、自分。
資料整理も、自分。
コピーも、自分。
郵便も、自分。
メンタル管理も、自分。
次の日の予定調整も、自分。
そして、帰宅後に所長へ業務報告。
所長は、特に褒めてはくれません。
ただし、おやつを出すと、少しだけ労をねぎらってくれます。
たぶん。
次回は、訴状を書くときに感じたことについて書いてみます。
訴状。
名前がもう怖いです。
実際に少額訴訟へ進むまでの経緯や、当時の判断については、note連載でも書いています。
このブログでは制度面・実務面を中心に整理し、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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