前回の記事では、本人訴訟で時系列表が役に立った理由について書きました。

結論は、こうです。
記憶は裏切る。日付はわりと裏切らない。
トラブルの最中、人間の記憶はかなり混ざります。
怒り。
不安。
相手へのツッコミ。
自分の言い分。
所長の不機嫌。
全部が同じ鍋で煮込まれると、何が事実で、何が感想なのか分からなくなります。
そこで役に立つのが、時系列表です。
今回は、実際に時系列表を作るとき、どんな項目を入れればよいのかについて書いてみます。
最初は「雑な一覧」で十分
私の場合、最初はかなり簡単な表から始めました。
最終的には、次のような項目があると使いやすいと感じました。
| 項目 | 内容 |
| 日付 | 出来事があった日 |
| 出来事 | 何が起きたか |
| 相手方の対応 | 相手が何を言ったか、何をしたか |
| こちらの対応 | 自分が何をしたか |
| 関係資料 | メール、通帳、明細、書面など |
| メモ | 後で見返すための補足 |
最初から完璧に作る必要はありません。
むしろ、最初から完璧を目指すと挫折します。
時系列表は、立派な記念碑ではありません。
作業台です。
あとから直していい。
追加していい。
並べ替えていい。
表現を整えていい。
最初は「雑な一覧」で十分です。
「〇月〇日 給料入ってない」
「〇月〇日 会社にメール」
「〇月〇日 変な返事」
「〇月〇日 さらに変な返事」
最初はそれくらいでもいいのです。
ただし、裁判所や相談窓口に出す可能性があるなら、「変な返事」は後で少し上品に変換します。
たとえば、
相手方から、支払方法について条件を付す趣旨の回答があった。
こうです。
実務の世界では、「変な返事」も、衣装を着せると少し立派になります。
「事実」と「感想」を分ける
時系列表を作るときに、一番大事なのは、事実と感想を分けることです。
たとえば、次の2つは違います。
会社から「現金で取りに来るように」と連絡があった。
これは事実に近い記載です。
一方で、
会社がわざと嫌がらせのために現金で取りに来いと言ってきた。
これは評価や推測が入っています。
もちろん、内心ではそう思うこともあります。
私も、いろいろ思いました。
かなり思いました。
所長に話しかけながら、だいぶ思いました。
しかし、時系列表では、まず事実を優先します。
相手が何を言ったのか。
どの文面で言ったのか。
いつ言ったのか。
そこを固めます。
評価は、そのあとです。
事実という土台がないまま評価だけを積み上げると、見た目は派手でも崩れやすくなります。
まるで、基礎工事をしていない高層ビルです。
あるいは、所長のおやつを買い忘れた日の私の立場です。
非常に不安定です。
資料番号を付けると、急に実務っぽくなる
時系列表に関係資料を書くときは、あとで資料番号を付けると便利です。
たとえば、
- 資料1:雇用契約書
- 資料2:給与明細
- 資料3:通帳入金履歴
- 資料4:会社からのメール
- 資料5:こちらからの返信
という感じです。
裁判では「甲第〇号証」という形で証拠番号を付けることがありますが、最初からそこまで形式ばらなくても構いません。
自分用なら、まずは「資料1」「資料2」で十分です。
大事なのは、
この出来事を説明する資料はどれか。
が分かるようにしておくことです。
時系列表の「関係資料」欄に「資料4」と書いておけば、後から見返したときにすぐ確認できます。
これをやらないと、後でこうなります。
「あのメール、どこだっけ」
「あのスクショ、スマホのどのフォルダだっけ」
「このPDF、ファイル名が『IMG_3928』なんだけど何だっけ」
「デスクトップに『新しいフォルダー(3)』が7個あるんだけど」
これが人類の現実です。
資料番号は、人類を少しだけ救います。
書くときのコツ
時系列表を作るとき、意識した方がよいと思うコツは、次のあたりです。
まず、できるだけ日付を入れることです。
「たしかこの頃」ではなく、できるだけ日付を入れます。
メールや通帳には日付が残っています。
そこから拾います。
日付が分からない場合は、「〇月上旬」「〇月頃」でも構いませんが、分かるものは正確に書いた方がよいです。
次に、一つの行に一つの出来事を書くことです。
一つの行にあれこれ詰め込むと、あとで分かりにくくなります。
「会社に連絡し、相手から返事があり、それにこちらが反論し、さらに相手が……」
こうなると、読む側も疲れます。
書く側も疲れます。
所長も寝ます。
できれば、一つの行には一つの出来事です。
そして、相手の発言は、できるだけ原文を確認します。
相手の発言は、要約するときに意味が変わることがあります。
重要な部分は、メールやメッセージの原文を確認して、必要に応じて引用できるようにしておきます。
ただし、ブログやSNSに出すときは別です。
個人名、会社名、日時、地域、文面などは、必要に応じて匿名化・加工した方が安全です。
ここは、公開用と手続用を分ける意識が必要です。
自分に不利そうな出来事も消さない
これも大事です。
時系列表を作っていると、
これは自分に不利に見えるかも。
と思う出来事が出てくることがあります。
しかし、自分用の整理段階では、消さない方がよいです。
後で相手から出されたときに慌てるより、最初から把握しておいた方が安全です。
自分に都合のいい出来事だけを並べた時系列表は、見た目は気持ちいいですが、実務上は弱くなります。
いわば、筋トレをしたくない部位だけ避けた身体です。
いざというとき、そこから崩れます。
まとめ:まず並べる。あとで整える。
最初の時系列表は、難しく考えなくて大丈夫です。
たとえば、未払い給料の件なら、まずはこんな形で十分です。
| 日付 | 出来事 | 資料 | メモ |
| 〇月〇日 | 退職 | 退職届・メール | 最終勤務日を確認 |
| 〇月〇日 | 給与支払予定日 | 給与明細・通帳 | 入金なし |
| 〇月〇日 | 会社に確認 | メール | 支払予定を質問 |
| 〇月〇日 | 会社から回答 | メール | 支払方法について回答 |
| 〇月〇日 | こちらから再連絡 | メール | 振込等を希望 |
| 〇月〇日 | 会社から再回答 | メール | 条件等を確認 |
これを作るだけで、かなり見通しがよくなります。
そして、必要に応じて、
- 請求額
- 支払方法
- 相手の主張
- こちらの対応
- 法的に気になる点
などを足していけばよいです。
最初から完成形を作ろうとしない。
まず並べる。
あとで整える。
これが現実的です。
時系列表は、相手を攻撃するためだけのものではありません。
自分の判断を助けるためのものでもあります。
まだ話し合いで解決できる段階なのか。
相談窓口に行くべき段階なのか。
書面で請求した方がいいのか。
少額訴訟などの手続を考える段階なのか。
こうした判断は、感情だけでは難しいです。
腹が立っているときは、全部すぐに裁判所へ持っていきたくなります。
逆に、疲れているときは、全部もうどうでもよくなります。
人間の感情は、アクセルとブレーキの調整が下手です。
時系列表は、その間に入るメーターのようなものです。
今どこにいるのか。
何が起きているのか。
次に何をすべきなのか。
それを確認するための道具です。
次回は、証拠を集めるだけでは足りない理由について書いてみます。
証拠は、集めただけではまだ「材料」です。
料理にするには、切って、並べて、味付けする必要があります。
もっとも、所長の場合は、材料の段階でだいたい食べようとします。
より詳しい経緯や、実際にどのような資料を整理しながら少額訴訟へ進んだのかについては、note連載でも書いています。
このブログでは実務面・整理方法を中心に、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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