スクショ30枚で勝った気になる前に|証拠の山で遭難しないために

前回の記事では、本人訴訟で役に立った「時系列表」の作り方について書きました。

結論は、こうです。

記憶は裏切る。日付はわりと裏切らない。

たいへん冷たい言い方ですが、実務の世界ではだいたいこうです。

「私はこう感じました」より、
「〇月〇日にこう書かれています」
の方が強い。

人間の怒りは熱い。
メールの日付は冷たい。
そして、裁判所や相談窓口が好むのは、だいたい冷たい方です。

さて、時系列表を作り始めると、次にやりたくなることがあります。

それは、証拠集めです。

通帳。
給与明細。
メール。
LINE。
SMS。
就業規則。
雇用契約書。
ネットバンキングの画面。
相手から届いた謎の文章。
なぜか高圧的なメッセージ。
読み返すたびに血圧が上がるスクリーンショット。

こういうものを集めていると、だんだん気持ちが大きくなってきます。

「これは勝ったな」
「こんなにあるぞ」
「見ろ、証拠の山だ」
「我が軍は圧倒的ではないか」

しかし、ここで注意が必要です。

証拠は、集めただけではまだ証拠として働いてくれません。

ただの山です。
場合によっては、紙と画像のガラクタ市です。

証拠にも、配置と役割が必要なのです。

目次

証拠を集めると、人は少し強くなった気がする

トラブルが起きたとき、証拠らしきものを保存するのは大切です。

これは間違いありません。

メールを消さない。
LINEをスクショする。
通帳の入金履歴を確認する。
給与明細を残す。
相手の発言を保存する。

ここまでは、とても大事です。

ただ、証拠を集め始めると、人間は少し危険な状態になります。

なぜなら、集めた時点で、もう説明できた気になってしまうからです。

たとえば、スマホの写真フォルダにスクリーンショットが30枚ある。

これだけで、かなり戦っている気分になります。
本人の気持ちとしては、もう大河ドラマ最終回です。
テーマ曲も流れています。
画面右下には「完」の文字が出ています。

しかし、第三者から見ると、こうです。

で、これは何の証拠ですか?

厳しい。
非常に厳しい。

でも、これが現実です。

証拠は、
「存在していること」

「何を証明するためのものか説明できること」
の間に、大きな川があります。

この川を渡らないと、証拠は働いてくれません。

証拠の山で、読む人を遭難させない

証拠をたくさん集めること自体は悪くありません。

むしろ、ないよりはあった方がいいです。

ただし、出し方を間違えると、読む人が遭難します。

たとえば、何の説明もなく、

  • スクショ30枚
  • PDF12個
  • 通帳コピー5ページ
  • メール印刷20枚
  • 手書きメモ数枚
  • ファイル名「IMG_4821」
  • ファイル名「新しいドキュメント最終版本当の最終版2」

こういうものを渡されたら、受け取った側はどうなるでしょうか。

たぶん、心の中でこう思います。

どこから見ればいいんですか。

証拠が多すぎると、逆に伝わらないことがあります。

これは、カレーにスパイスを全部入れればおいしくなるわけではないのと同じです。

クミン、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラ。
ついでに冷蔵庫にあった焼肉のたれ。

全部入れたら、たぶん方向性を見失います。

証拠も同じです。

大事なのは、量ではなく整理です。

「これはひどい」ではなく「何を示すのか」

証拠を見ていると、つい言いたくなります。

「これはひどい」
「非常識だ」
「あり得ない」
「なぜこうなる」
「所長、ちょっと聞いてくれ」

もちろん、そう感じること自体は自然です。

ただ、実務で大事なのは、

その証拠が何を示すのか

です。

たとえば、相手からのメッセージがあったとします。

そのメッセージを見て、こちらは、

なんだこの文章は。

と思う。

しかし、書面や時系列表では、そこを少し変換します。

たとえば、

相手方は、〇月〇日、支払方法について〇〇を条件とする旨を連絡した。

このように書く。

内心では、

また始まったぞ、謎ルール制定委員会。

と思っていても、外向きには事実として書く。

これが大事です。

「ひどいでしょう?」と叫ぶより、
「この日に、こういう内容の連絡がありました」と示す方が、ずっと強い。

なぜなら、読む側が自分で判断できるからです。

こちらが先に怒りすぎると、読む側は少し引きます。

一方、淡々と事実を並べると、読む側が勝手にこう思ってくれることがあります。

……これ、ちょっとおかしくないか?

ここまで来れば成功です。

こちらが太鼓を叩かなくても、事実が勝手に盆踊りを始めます。

まとめ:証拠は、集めただけではまだ山である

証拠は大事です。

しかし、集めただけでは足りません。

大事なのは、

  • 何の資料なのか
  • いつの資料なのか
  • 誰が作った、または送ったものなのか
  • どの事実を示すのか
  • どの順番で見ればよいのか

を整理することです。

証拠は、黙っていても勝手に働いてくれるわけではありません。

集める。
並べる。
意味を説明する。

ここまでして、ようやく証拠が仕事を始めます。

スクショ30枚で勝った気になる前に、まずはそのスクショたちに聞いてみる必要があります。

君たちは、何を証明する担当なのか。

次回は、証拠に「担当部署」を割り振る話を書いてみます。

給与明細さん、金額担当。
通帳履歴さん、入金確認担当。
メールさん、相手方発言担当。

証拠にも、人事異動が必要です。


実際の経緯や、証拠をどのように整理して少額訴訟へ進んだのかについては、note連載でも書いています。
このブログでは、制度面・実務面を中心に整理し、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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この記事を書いた人

金融の現場で30年以上、貸す・回収する・法的手続を扱う側として働いてきた主任研究員。腑に落ちないことをそのままにできない性分。当研究所ではDr.ホワイト所長の監督のもと、制度・書面・権利回復に関する実務知識を発信しています。

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