伝わる文章は意外と地味である|チーズみたいに伸びた一文を切る

前回の記事では、裁判所に出す文章は、心の叫びではなく案内図にした方がよい、という話を書きました。

裁判所は、怒りの熱量を測定してくれる場所ではありません。

お気持ちは分かりました。ところで請求原因はどこですか?

この一言は、なかなかつらい。

だからこそ、怒りは事実の形に変換する必要があります。

今回は、その具体的な方法です。

目次

事実と評価を分ける

まず大事なのは、事実と評価を分けることです。

たとえば、

相手方は、〇月〇日、原告に対し、現金で受け取りに来るよう連絡した。

これは事実に近い記載です。

一方で、

相手方は、原告を困らせるため、嫌がらせ目的で現金受取を強要した。

これは評価や推測が入っています。

もちろん、そう感じることはあります。

私も、いろいろ感じました。
所長に語りかけながら、かなり感じました。

しかし、文章ではまず事実を置きます。

そのうえで、必要なら評価を書く。

順番が大事です。

事実という土台の上に評価を置く。
評価だけを先に積むと、見た目は派手でも不安定です。

それは、基礎工事なしで建てたタワーマンションです。

あるいは、おやつを持たずに所長の前に立つ私です。

非常に危険です。

「相手が悪い」より「この点が問題」

伝わりにくい文章は、相手全体を攻撃しがちです。

被告は極めて不誠実である。
被告の対応は常識外れである。
被告には誠意がない。
被告は社会人としてどうなのか。

気持ちは分かります。

しかし、こう書くと、読み手は少し困ります。

なぜなら、判断すべき対象が広がりすぎるからです。

裁判所に判断してほしいのは、相手の人生全体ではありません。
今回の請求に関係する具体的な点です。

だから、文章では、

相手が悪い

ではなく、

この点が問題

に変換します。

たとえば、

被告は、〇月分給与について、支払期日を経過しても支払をしていない。

あるいは、

被告は、支払方法について〇〇を条件とする旨を述べ、通常の受領方法による解決を困難にした。

この方が、焦点が絞れます。

人格攻撃ではなく、行為の問題として書く。

これが大事です。

相手の人格を燃やし尽くす必要はありません。
こちらが求めているのは、基本的には支払いです。

焚き火大会ではないのです。

一文を短くする

文章が伝わらなくなる原因の一つは、一文が長すぎることです。

怒っていると、一文が伸びます。

非常によく伸びます。
チーズのように伸びます。
しかも、あまりおいしくありません。

たとえば、

被告は、原告が退職後に正当に受領すべき給与について、原告が何度も合理的な方法による支払いを求めたにもかかわらず、これを無視し、または不合理な条件を付し、結果として原告に多大な精神的負担と手続的負担を強いたものであって……

読む方も息継ぎができません。

途中で遭難します。

これを分けます。

原告は、退職後、〇月分給与の支払いを求めた。
しかし、被告は支払期日を経過しても同給与を支払わなかった。
その後、原告は振込による支払いを求めた。
これに対し、被告は〇〇を条件とする旨を述べた。

短い。
地味。

でも分かる。

文章は、短くすると弱くなるのではありません。
むしろ、強くなることがあります。

パンチも、振りかぶりすぎると当たりません。
短く、まっすぐ打つ方が効きます。

ただし、実際に殴ってはいけません。
書面でお願いします。

形容詞を減らす

伝わりにくい文章には、形容詞が多くなりがちです。

極めて悪質。
到底許されない。
著しく不合理。
常識外れ。
信じがたい。
前代未聞。
空前絶後。

気持ちは分かります。

怒りの語彙フェスティバルです。

しかし、形容詞が多すぎると、かえって弱く見えることがあります。

なぜなら、形容詞は評価だからです。

評価を強くするより、事実を強くする。

たとえば、

被告の対応は著しく不誠実である。

と書くより、

被告は、〇月〇日には〇〇と述べていたにもかかわらず、〇月〇日にはこれと異なる説明をした。

の方が伝わる場合があります。

読む側が、自分で「それは不自然だな」と思えるからです。

こちらがラベルを貼りすぎると、読み手は少し身構えます。

一方、事実を並べると、読み手が自分でラベルを貼ってくれることがあります。

これは強いです。

「非常識です!」と叫ぶより、
非常識に見える事実を静かに置く。

すると、事実が勝手に仕事をします。

所長も同じです。

吠えずに玄関前に座るだけで、こちらに強烈な圧をかけてきます。

沈黙の証明力です。

見出しをつける

長めの文章を書くときは、見出しが大事です。

見出しは、読み手への休憩所です。

「ここからは請求額の話です」
「ここからは時系列です」
「ここからは証拠の説明です」
「ここからは相手方の主張への反論です」

こうやって区切ると、読み手は迷いにくくなります。

見出しがない文章は、標識のない高速道路のようなものです。

どこに向かっているのか分からない。
今どのあたりなのか分からない。
出口も分からない。
途中でサービスエリアもない。

読む側は疲れます。

しかも、書いている本人も疲れます。

見出しをつけると、自分でも整理できます。

「あれ、この段落は何を書いているんだ?」
「この話、さっきも書いたな」
「ここで急に所長の話を入れる必要はあるのか」

最後の問いは難しいです。

たいてい必要です。
ただし、頻度は調整します。

まとめ:地味な文章ほど、意外と強い

裁判所に伝わる文章は、意外と地味です。

事実を置く。
評価はあとにする。
相手全体ではなく、問題点を書く。
一文を短くする。
形容詞を減らす。
見出しをつける。

派手さはありません。

でも、読み手は助かります。

正しいことを書いているつもりでも、伝え方を間違えると損をします。

正論も、包装を間違えると爆発物になります。

次回は、相手の主張にツッコミたくなったとき、それをどう書面用に翻訳するかを書いてみます。

「何言ってんだお前」は、そのまま書いてはいけません。

怒りの方言は、裁判所標準語に翻訳する必要があります。


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この記事を書いた人

金融の現場で30年以上、貸す・回収する・法的手続を扱う側として働いてきた主任研究員。腑に落ちないことをそのままにできない性分。当研究所ではDr.ホワイト所長の監督のもと、制度・書面・権利回復に関する実務知識を発信しています。

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