テレビを見ていると、定期的に物価上昇のニュースが流れます。
スーパーへ行く。
店主に聞く。
買い物客に聞く。
「また値上がりです」
「家計には厳しいですね」
「なるべく安いものを選んでいます」
そして専門家か記者が、
「飼料価格の高騰」
「円安による輸入コストの上昇」
「節約志向による需要増」
などを説明する。
間違ってはいません。
ただ、私はいつも少し物足りなくなります。
それも原因なのは分かった。で、その先は?
と思うのです。
安いものへ逃げれば、その安いものが高くなる
例えば牛肉や豚肉が高くなったとします。
家計を守ろうとする人は、比較的安い鶏肉へ移ります。
これは各家庭から見れば、きわめて合理的な行動です。
ところが、多くの家庭が同じことをすればどうなるでしょう。
鶏肉を買いたい人が増えます。
経済学の言葉では、鶏肉の需要曲線が右へ動くことになります。
ここから少しだけ式が出てきます。苦手な方は式を飛ばして、図と文章だけ追ってください。話はちゃんとつながります。
単純化して、鶏肉の需要を、
と書いてみます。
Pは鶏肉の価格。
Rは牛肉や豚肉など、代わりになる肉の価格です。
aは、鶏肉やほかの肉の価格以外の条件をまとめた、需要の基準となる値。bは、鶏肉が高くなったとき、買う量がどれだけ減るか。cは、ほかの肉が高くなったとき、鶏肉へどれだけ人が流れてくるか。bとcはどちらもプラスの数です。
鶏肉そのものが高くなれば、鶏肉の需要は減る。
一方で、牛肉や豚肉が高くなれば、
の部分によって、鶏肉の需要は増えます。
これが「代替財」です。
難しい話ではありません。
「牛肉、高いな。今日は鶏肉にするか」
あれです。
ただし、日本中で「あれ」が起きると話が変わります。
節約のために選ばれていた商品の需要が増え、その商品自身の価格にも上昇圧力がかかる。
節約しようとする行動が、節約しやすかった商品の安さを削っていく。
ここまでを図にすると、こうなります。

青い需要曲線D1が赤いD2へ右に移ると、供給曲線との交点(均衡点)もE1からE2へ、右上に動きます。
ほかの肉が高くなって鶏肉へ買い手が移れば、鶏肉の価格は上がり、取引量も増える。
でも、需要が増えたら必ず大幅に値上がりするのか
ここで、図のもう一本の線を見ます。
供給です。
単純化して、
としてみます。
dは、鶏肉の価格以外の条件をまとめた、供給の基準となる値。eは、値段が上がったときにどれだけ増産できるか、つまり供給の増やしやすさです。
価格が上がれば、生産者は供給を増やそうとします。
需要量と供給量が一致するところ、つまり図の交点が市場価格ですから、
として解けば、
となります。
分母にはbとeがいます。
そのうち、まず私が面白いと思うのはeの方です。
eが大きい、つまり需要が増えたときに生産量を増やしやすいなら、価格上昇は比較的小さくて済みます。
逆にeが小さく、増産したくても簡単には増やせないなら、増えた需要は価格の上昇として表れやすくなります。
同じだけ需要が増えても、eの大きさで結果はここまで変わります。

ここで初めて、
「供給を増やせれば、値上がりは和らぐ」
という話になります。
そして私は、テレビの値上がり特集を見るたびに思うのです。
そこを聞いてきてくれよ。
「需要が増えました」の次に聞くこと
鶏肉の需要が増えている。
そこまでは分かった。
ならば、次に聞くべきなのは、
「なぜ供給を増やせないのですか」
ではないでしょうか。
鶏は明日から突然二倍にはなりません。
飼育施設にも限界がある。
人手もいる。
飼料も必要です。
飼料価格が高騰しているなら、増産しようとしてもコストが重くなる可能性があります。
国内生産だけで足りないなら、輸入はどうなのか。
為替はどう影響しているのか。
物流や加工能力に制約はないのか。
ここまで来れば、同じ「鶏肉の値上がり」というニュースでも、取材先が変わります。
スーパーの店頭で、
「高くなりましたね」
「困りますね」
と聞いて帰ってくるだけでは済まなくなる。
生産者にも行かなければならない。
飼料業者にも聞きたくなる。
輸入の状況も調べたくなる。
つまり、需要曲線と供給曲線を一本ずつ引くだけで、
次に何を調べればいいのかが見えてくる。
私は、ここが経済学の面白いところだと思っています。
原因の名前を並べるだけでは、仕組みは見えない
「円安です」
「飼料高です」
「節約志向です」
どれも間違いではありません。
でも、それだけなら原因の名札を三枚並べただけです。
知りたいのは、その名札同士がどうつながっているかです。
実は、さっきの式にはもう全部入っています。
牛肉や豚肉が高くなって鶏肉へ人が移る動きは、cRに入る。
飼料高や円安で、同じ価格では以前ほど供給できなくなれば、dが小さくなる。
需要が増えたとき、どれだけ増産できるかはeに入る。
そして鶏肉自身が高くなったとき、どれだけ需要が減るかはbに入る。
名札は、式の中ではちゃんと置き場所を持っています。
牛肉が上がる。
鶏肉へ需要が移る。
鶏肉の需要曲線が右へ動く。
そのとき、供給をすぐ増やせるなら価格上昇は小さい。
増やせないなら、価格は大きく上がる。
そして鶏肉まで高くなれば、消費者はさらに別の商品へ移るか、肉そのものの購入量を減らすことになります。
分母のbが効くのは、ここです。値上がりに、買い手の側からブレーキがかかる。
価格とは、単独で動いている数字ではありません。
人が逃げれば、その逃げ先が動く。
需要が動けば、供給との関係が変わる。
その結果として価格が動く。
だから私は、
「鶏肉も値上がりしました」
というニュースを見ると、つい思ってしまいます。
それは見れば分かる。
知りたいのは、その次です。
なぜ上がったのか。
そして、
何が変われば、上がらずに済むのか。
そこまで行って、ようやく少し腑に落ちます。
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