2026年10月1日から、ビール系飲料の酒税が一本化されました。
350ml当たりで見ると、ビールは63.35円から54.25円へ。一方、いわゆる「第三のビール(新ジャンル)」は46.99円から54.25円になります。ビールは9.10円の減税、新ジャンルは7.26円の増税です。[1]
もちろん、税額が変わった分だけ店頭価格も動くとは限りません。メーカーや小売店の値付けがあります。ただ、税金によって作られていた価格差はなくなります。
これを聞いて、大学で習った言葉を久しぶりに思い出しました。
代替財。
ずいぶん懐かしい言葉です。
コーヒーが高くなったら紅茶を買う
コーヒーと紅茶。バターとマーガリン。まったく同じものではありませんが、ある程度は互いの代わりになります。一方が高くなれば、「だったら、こっちにしよう」という人が出てくる。このような関係にある商品を、代替財と呼びます。
ビールと新ジャンルも、これに近い関係でしょう。
「ビールは飲みたい。でも毎日飲むにはちょっと高い。だったら新ジャンルでいい」
ところが価格差が小さくなると、こう考える人も出てきます。
「これだけしか違わないなら、ビールでよくないか」
大事なのは、相手と比べてどれくらい高いかです。二つの商品の価格の関係、つまり相対価格が変わると、選び方も変わります。
経済学では、この関係を「交差価格弾力性」で表します。
Qの添字Bはビールの需要量、pの添字Nは新ジャンルの価格です。Δは変化分を表します。分子はビールの需要量の変化率、分母は新ジャンルの価格の変化率です。
新ジャンルの価格が1%上がったとき、ビールの需要量が何%変わるかを見る数字です。ビール自身の価格や所得など、ほかの条件は同じとして考えます。需要量が増えるなら、この値はプラス。代替関係にある、ということです。
ずいぶん大学の講義っぽくなってきました。
需要曲線はどう動くのか
まずは話を分けて、新ジャンルだけが値上がりした場合を考えます。

左の図では、新ジャンル自身の価格が上がり、購入量が減っています。これは、同じ需要曲線の上を左上へ移動する話です。
右の図では、「新ジャンルが高くなったから、代わりにビールを買おう」という人が増えています。ビールの価格を据え置いても購入量が増えるので、こちらは需要曲線そのものが右へ動きます。
自分の値段が変わったのか、代わりになる商品の値段が変わったのか。同じ「需要が変わる」でも、図の上では区別します。
今回の改正では、店頭価格に反映されれば、ビール自身の値下がりも加わります。ビールには、需要曲線が右へ動く効果と、その曲線の上で値下がりによって購入量が増える効果の両方が働く、と整理できます。
そしてとうとう効用関数が出てくる
もう一つ、大学以来ほとんど口にしていない言葉があります。効用関数です。
経済学では、商品を買って得る満足を「効用」と呼びます。ビールの本数をB、新ジャンルの本数をNとすれば、その組み合わせから得られる満足を、こう書きます。
「ビールと新ジャンルを何本ずつ買えば、どれくらい満足できるか」を表す関数です。とはいえ、好きなだけ買えるわけではありません。財布があります。
pの添字Bはビールの価格、添字Nは新ジャンルの価格。Mは酒に使える予算です。「買い物の合計額は予算以内に収める」。それを数式にしただけです。
そして、その条件の下でいちばん満足できる組み合わせを選ぶ。
ただし、上の予算の条件を満たす範囲で選びます。これが「効用最大化」です。
財布と相談しながら、いちばん機嫌よく酒を飲める買い方をする。
数式にすると、急に立派になります。
価格が変わると買える組み合わせも変わる
ここでは、酒の予算を使い切ると考えます。すると先ほどの不等号が等号になり、横軸を新ジャンルN、縦軸をビールBとして、次の直線が描けます。
これが予算制約線です。線の内側なら予算内、外側なら予算オーバー。同じ予算で何を何本買えるか、その境界を示しています。
ビールが安くなると、縦軸の切片は上へ。新ジャンルが高くなると、横軸の切片は左へ。今回のような価格変化では、予算線は縦軸側が上がり、横軸側が縮んで、傾きが急になります。

※図1・図2は仕組みを説明するための図です。図2は予算4,800円、変更前はビール240円・新ジャンル160円、変更後はともに200円と仮定しています。本数は連続的に扱います。実売価格や販売量、改正後の値動きの予測ではありません。
破線は「無差別曲線」です。その線の上にある組み合わせなら、どこを選んでも同じ満足が得られる、という意味です。たとえば、ビールを減らして新ジャンルを増やしても、満足度を保てる組み合わせを結んでいます。
予算内で届く、いちばん満足度の高い曲線を探す。なめらかな曲線で、両方を買う場合には、予算線と接する点が最適な組み合わせになります。
図ではAからBへ動き、ビールが8本から12本へ、新ジャンルが18本から12本へ変わっています。
なお、無差別曲線を実際に描くには、効用関数の具体形が必要です。この図では、形を説明するために、次の関数を置きました。
ここで図をもう一度見ると、Bを通る無差別曲線は、Aを通る曲線より下にあります。同じ式で計算すると、Aの効用は約7.07、Bは約6.93です。
ビールは増えたのに、満足度は下がっています。
この人は、安い新ジャンルを多く買うことで予算をやりくりしていました。その値上がりを、ビールへの乗り換えだけでは埋め切れなかった。ビールが買いやすくなったことと、酒の買い物全体が楽になったことは、同じではありません。
好みまで税率と一緒に揃うわけではない
もっとも、価格差が縮んだら誰もがビールに戻る、とは限りません。
「この銘柄が好き」「糖質が気になる」。長年新ジャンルを飲んでいて、もうそれ自体の味が好きになった人もいるでしょう。
こうした好みも、効用関数に含めて考えられます。経済学が味や習慣を無視しているわけではありません。ただ、先ほどの図では、好みと予算を固定して、価格が変わる効果を取り出しました。
メーカーも値付けや商品構成を変えるでしょう。財務省は、税率格差が商品開発や販売数量に影響してきたことを、改正理由の一つに挙げています。[1]
長い間、メーカーは「ビールに近いものを、より低い税率で作る」ことにも工夫を重ねてきました。税率が揃えば、消費者の選び方だけでなく、作り手が何を開発するかという条件も変わります。
酒売り場で大学の続きを見る
実際にどれだけの人がビールへ戻るのか。それとも、思ったほど動かないのか。答えはこれからの値札と売れ行きに出てきます。
大学で習った代替財、予算制約線、無差別曲線。久しぶりに引っ張り出してみると、値札を眺めるだけでも少し見え方が変わります。
「この差なら、ビールでええか」
その一言を図と数式にしたら、大学のミクロ経済学が戻ってきました。
▼続編
「鶏肉も値上がりしました」で終わるな——需要と供給を一本ずつ引けば、次に聞くことが見えてくる
参考資料
[1]財務省「酒税に関する資料」および「酒税改正(平成29年度改正)について」。税額は350ml換算。2026年9月30日確認。
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