「そろそろ上がる」は投資理由ではありません――人間がサルに戻る前に決めておく7つのルール

株価が5日続けて下がった。

「さすがに、そろそろ上がるだろう」

買う。

さらに下がる。

「いや、ここまで下がったら、むしろ買い増しだ」

買う。

ようやく反発する。

「ほら見ろ。流れが変わった」

さらに買う。

3日続けて上がる。

「これは本物だな」

お前の確率論、毎日変わってないか。

投資をしていると、人間は実に器用です。

下がり続ければ「そろそろ上がる」と考え、上がり始めれば「まだ上がる」と考える。

反対のことを言っているようですが、本人の中ではまったく矛盾していません。

なぜなら、どちらも結論は同じだからです。

俺の持っている株は上がる。

便利な理論です。

目次

宝くじなら笑えるのに、自分の株だと笑えない

宝くじを10回買って、10回外れた人がいたとします。

その人が11回目の売り場で、

「10回も外れたんだから、今度こそ当たる確率が高い」

と言ったら、たぶん私たちは止めます。

いや、前の10回は関係ないから。

ところが株になると、似たようなことを平気でやります。

「こんなに下がったんだから、そろそろ戻る」

これが、いわゆるギャンブラーの誤謬です。

ただし、株価はルーレットではありません。

ここが少々ややこしい。

企業業績も景気も金利も需給も変わるので、「5回赤が出たから次は黒」と株価をまったく同じ話にはできません。

しかも市場にはモメンタムという現象まであります。

ざっくり言えば、上がっている資産がしばらく相対的に上がりやすく、下がっている資産がしばらく弱い、という傾向です。

では、

「3日上がった。まだ上がる!」

も立派な投資理論なのか。

違います。

少なくとも、

あなたの株が火曜日から木曜日まで上がったことと、金融研究でいうモメンタムは同じものではありません。

ここを一緒にすると急に危なくなります。

近所の草野球で3打席連続ヒットを打ったおじさんを見て、

「大谷翔平にもホットハンドがあるからな」

と言っているようなものです。

たぶん違う。

人間は利益にはせっかちで、損には急に長期投資家になる

もう一つ厄介なのがプロスペクト理論です。

細かい説明は省きますが、人間は同じ金額なら、利益を得る喜びより損失を被る痛みを大きく感じる傾向があります。

これが投資口座に入ると、妙なことが起きます。

1万円儲かっている株を見る。

「よし。利益があるうちに売っておこう」

3万円損している株を見る。

「まあ、これは長期で持つつもりだったから」

いつ決めた。

買ったときは、

「短期で面白そう」

と言っていなかったか。

含み益にはせっかちなのに、含み損を抱えた瞬間だけウォーレン・バフェットになる。

これも人間です。

「損を確定したくない」という感情が、「長期投資」という立派な日本語に着替えているだけかもしれません。

だったら、自分を信用しなければいい

そこでマイルールです。

私は投資でいちばん危険なのは、知識不足だけではないと思っています。

その場になったときの自分を信用しすぎることです。

暴落したら冷静に判断しましょう。

できれば苦労しません。

上昇相場でも欲張らないようにしましょう。

それができるなら、人類はとっくにもっと立派になっています。

だから平常時に決めてしまう。

サルに戻った自分に、あらかじめ限度額と決裁権限を設定しておく。

銀行みたいなものです。

担当者がその日の気分で、

「今日は社長の目がきれいだから3億円貸しましょう」

と言い出したら困ります。

限度額があり、審査基準があり、決裁権限がある。

投資も同じです。

問題は、自分の証券口座では、

担当者も審査役も決裁者も全部自分

だということです。

しかも全員、同じ日に興奮します。

これは組織としてかなりまずい。

そこで、少なくとも私は、こんな規程を先に作っておく方がいいと思います。

1.インデックス投資の積立日は相場を見て変えない

オールカントリーやS&P500を長期積立する方針なら、

「今月は高い気がするので来週にする」

を始めない。

積立投資をしていたはずなのに、いつの間にか短期の相場予想大会が始まります。

毎月決まった日に買うと決めたなら、その日に買う。

明日の株価を当てる能力があるのなら、そもそもオールカントリーを淡々と積み立てる必要はありません。

たぶん、ないから積み立てているのです。

2.「そろそろ」と「まだいける」を売買理由にしない

この二つが頭に浮かんだら、いったん売買停止。

「なぜ?」をもう一度考える。

答えが、

「だって5日も下がっているから」

なら、たぶん何も考えていません。

逆に、

「3日も上がっているから、流れが来ている」

も、それだけでは同じです。

上がったから上がる。

下がったから上がる。

どっちにしても上がる。

それは分析ではありません。

願望です。

3.個別株は一銘柄あたりの上限を先に決める

5%でも10%でも、自分の資産状況に合わせて決めればいい。

重要なのは数字そのものではなく、絶好調のときにも上限を変えないことです。

3回当てたくらいで、

「最近ちょっと見えるんですよ」

などと言い始め、投資額を倍にしてはいけません。

銀行で、担当者が3件連続で貸出先を当てたからといって、その人の決裁権限を翌月から2倍にはしません。

たぶん。

4.買う前に「なぜ買うか」と「何が起きたら間違いと認めるか」を書く

売上成長なのか。

利益率なのか。

財務改善なのか。

割安さなのか。

つまりファンダメンタルズです。

買った理由を先に書いておけば、あとで株価が下がったときにも確認できます。

ところが書いていないと、

「これは長期保有だから」

「配当もあるし」

「将来性はある」

「国策銘柄だから」

と、あとから理由が増殖します。

最初は一つだったはずの投資理由が、含み損とともに五つに増える。

なかなか生命力の強い生き物です。

5.ナンピンは、その場の思いつきではやらない

1000円で買った株が700円になった。

「安くなった」

とは限りません。

業績が悪化して、本当に価値が落ちただけかもしれない。

スーパーの半額シールとは違います。

刺身なら半額になれば、まあ安い。

株は半額になった理由を確認しないといけません。

しかも刺身の場合、

「さらに下がるまで待つ」

と言って翌日まで持ち越すと別の問題が発生します。

株と刺身は、似ているようで違います。

6.資産形成用のお金と遊ぶお金を分ける

オルカンを淡々と積み立てたい自分と、

テンバガー、つまり株価が10倍になるような銘柄を当てて友人に自慢したい自分

は、同じ財布に入れない方がいい。

後者を完全に殺す必要はありません。

個別株を選ぶこと自体が楽しい人もいるでしょう。

ただし、予算を与えて隔離する。

家庭内別居です。

老後資金を作っている人と、一発当てたい人を、同じ口座で共同生活させない。

これだけでも、かなり事故は減ります。

7.急に買いたくなったものは、一晩寝かせる

SNSで、

「次のNVIDIA!」

を見つけても、その場で買わない。

本当に次のNVIDIAなら、明日の朝まで会社はたぶん存在しています。

今日の23時47分に買わなければ二度と手に入らない銘柄など、そうそうありません。

翌朝になって、

「いや、別にいらんな」

と思ったら、それはたぶん投資判断ではなく興奮だったのでしょう。

株価はあなたの買値を知らない

これは覚えておいて損がないと思います。

あなたが1000円で買った株が700円になった。

悔しい。

分かります。

しかし市場は、

「あの人、1000円で買ってたよな。かわいそうだから900円くらいまでは戻してやるか」

とは考えてくれません。

株価はあなたの買値を知りません。

見るべきなのは、

「1000円に戻るか」

ではなく、

今700円のこの企業を、700円なら新しく買いたいか

です。

買値をいったん忘れて、売上、利益、キャッシュフロー、財務内容を見る。

それでも欲しいなら持てばいい。

いらないなら、1000円で買ったという自分の過去は関係ありません。

過去の自分に義理立てして、未来のお金まで付き合わせる必要はない。

投資で必要なのは、賢い自分ではない

プロスペクト理論を知った。

ギャンブラーの誤謬も知った。

ホットハンドの誤謬も分かった。

モメンタムとの違いもなんとなく分かった。

これで明日から合理的な投資家になれる。

たぶんなれません。

含み損が20万円になったら、今日読んだ話などきれいに忘れます。

だから大切なのは、

「私はバイアスを克服した」

と思うことではなく、

「どうせ私は、その場になったら都合のいい理屈を考える」

と最初から疑っておくことです。

そして、その自分に限度額を設定し、例外を認めず、先に決めたルールで縛る。

なんだか金融機関の内部規程みたいな話になってしまいました。

しかし、自分のお金を扱うときくらい、自分を少し信用しない方がいい。

相場を読む能力より、そちらの方が案外役に立つかもしれません。

なお、この記事を読んだ直後に、

「なるほど。じゃあ明日はモメンタム株を探そう」

と思った方。

サルに戻るのが少し早いです。


このブログ「Kazc’s Laboratory」では、身のまわりの出来事を、経営学・ゲーム理論・法律といった道具で観察しています。所長はクリーム色のチワワです。

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この記事を書いた人

金融の現場で30年以上、貸す・回収する・法的手続を扱う側として働いてきた主任研究員。腑に落ちないことをそのままにできない性分。当研究所ではDr.ホワイト所長の監督のもと、制度・書面・権利回復に関する実務知識を発信しています。

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