前回の記事では、退職後に給料が振り込まれないとき、「払われていない」を説明できる形にするため、何を確認したかについて書きました。

通帳を見る。
給与明細を見る。
メールを探す。
スクリーンショットを保存する。
こうして少しずつ資料が集まってくると、次に起こる問題があります。
それは、
集めた資料が、机の上と頭の中で大渋滞を起こす
という問題です。
証拠らしきものはある。
メールもある。
通帳履歴もある。
給与明細もある。
相手のメッセージもある。
こちらの返信もある。
ところが、それらがバラバラのままだと、だんだん自分でも何が起きたのか分からなくなってきます。
本人訴訟の第一歩は、相手を論破することではありません。
まず、自分の頭の中を救出することです。
そのために役に立ったのが、時系列表でした。
時系列表とは何か
時系列表というと、なんだか裁判資料っぽく聞こえます。
実際、裁判でも役に立ちます。
相談に行くときにも役に立ちます。
家族に説明するときにも役に立ちます。
そして何より、自分自身が落ち着きます。
要するに、時系列表とは、
いつ、何が起きたのかを、日付順に並べた表
です。
難しいものではありません。
日付。
出来事。
関係する資料。
一言メモ。
最初はそれだけで十分です。
たとえば、こんな感じです。
| 日付 | 出来事 | 関係資料 | メモ |
| 〇月〇日 | 退職 | 退職届・メール | 退職日を確認 |
| 〇月〇日 | 給与支払予定日 | 給与明細・通帳 | 入金なし |
| 〇月〇日 | 会社へ確認 | メール | 支払方法について回答あり |
| 〇月〇日 | 再度連絡 | メッセージ | 相手方の対応を保存 |
これだけです。
これだけなのですが、効果はかなりあります。
散らかった部屋を片づけるとき、まず床に落ちている物を種類ごとに分けるようなものです。
服。
書類。
本。
なぜここにあるのか分からない充電ケーブル。
いつのものか分からないレシート。
所長がどこからか持ってきた謎の紙片。
時系列表は、トラブルの中に散らばった出来事を、日付順に並べ直す作業です。
記憶は、意外とあてにならない
トラブルの最中は、どうしても感情が強くなります。
「このとき、たしか相手はこう言った」
「いや、その前にこちらが連絡したはず」
「あの返信は、給料日の前だったか後だったか」
「たしか夜だった気がする」
「所長が横で不満そうな顔をしていた」
最後の記憶は、かわいいですが訴訟資料としての価値は微妙です。
人間の記憶は、思ったより簡単に混ざります。
特に、腹が立っているときの記憶は危険です。
怒りという調味料が強すぎて、事実の味が分からなくなることがあります。
「絶対こうだった」と思っていても、メールの日付を見たら順番が違っていた。
「すぐ返事したはず」と思っていたら、実は3日空いていた。
「相手が先に言った」と思っていたら、こちらの確認が先だった。
こういうことは普通にあります。
だから、記憶ではなく記録です。
記憶は熱い。
記録は冷たい。
裁判所や相談窓口が好むのは、だいたい冷たい方です。
こちらがどれだけ熱く語っても、最後に聞かれるのは、
それは、いつのことですか。
その資料はありますか。
だったりします。
厳しい世界です。
でも、ルールが分かれば対処できます。
時系列表を作ると、何が見えるのか
時系列表を作ると、いくつかのことが見えてきます。
まず、事実の順番が見えます。
給料日がいつだったのか。
その日に入金がなかったのか。
その後、いつ会社に連絡したのか。
会社はいつ、何と答えたのか。
こちらはそれにどう対応したのか。
この順番が見えるだけで、かなり整理されます。
次に、相手の対応の変化が見えます。
最初は「支払う」と言っていたのか。
途中から条件をつけてきたのか。
連絡方法が変わったのか。
説明が変わったのか。
沈黙したのか。
急に強気になったのか。
あるいは、なぜか妙に芝居がかった文章になったのか。
時系列にすると、相手の言動のクセが見えてきます。
単発で見ると「変なメッセージ」でも、並べて見ると、
あれ、この人、毎回ここで話をずらしているな。
ということがあります。
これは、書面を作るときにも役立ちます。
なぜなら、相手の主張に対して、
それはおかしいです。
とだけ書くより、
〇月〇日にはこのように述べていたにもかかわらず、〇月〇日には異なる説明をしている。
と書いた方が、ずっと伝わりやすいからです。
感想ではなく、経過として示す。
ここが大事です。
まとめ:時系列表は、怒りを整列させる道具
トラブルが起きたとき、怒りや不安が出るのは当然です。
しかし、そのままだと、怒りはただの怒りです。
時系列表を作ると、その怒りが少しずつ形を持ち始めます。
いつ何が起きたのか。
誰が何を言ったのか。
何が残っているのか。
何が足りないのか。
それが見えてくると、次に何をすべきかも見えてきます。
本人訴訟で一番怖いのは、相手そのものより、
自分の頭の中がぐちゃぐちゃになることかもしれません。
時系列表は、そのぐちゃぐちゃを整えるための道具です。
立派な法律知識がなくても、まず日付順に並べることはできます。
難しい専門用語を知らなくても、出来事を書くことはできます。
完璧な書面が書けなくても、メモから始めることはできます。
そして、そこから少しずつ、説明できる形にしていけばいい。
感情だけで終わらせない。
制度や言葉を使って、自分の足元を守る。
そのための最初の道具が、私にとっては時系列表でした。
次回は、実際に時系列表を作るとき、どんな項目を入れればよいのかを書いてみます。
「変な返事」は、外に出すときには少し上品に変換します。
実務の世界では、珍妙なものにも衣装を着せる必要があります。
より詳しい経緯や、実際にどのような資料を整理しながら少額訴訟へ進んだのかについては、note連載でも書いています。
このブログでは実務面・整理方法を中心に、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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