前回の記事では、少額訴訟の限界と、本人訴訟のワンオペ感について書きました。

本人訴訟では、原告も自分。
事務員も自分。
コピー係も自分。
郵便係も自分。
メンタル担当も自分。
ブラック企業もびっくりのワンオペ体制です。
今回は、その中でも最初に緊張するイベント、訴状を書くことについて書いてみます。
「訴状」という名前がもう怖い
少額訴訟をするには、訴状を書きます。
ここで、いきなり少し緊張します。
訴状。
名前がもう怖い。
「お知らせ」ではありません。
「お願い」でもありません。
「相談メモ」でもありません。
訴状です。
文字面だけで、急に法廷ドラマの世界に入った感じがします。
脳内で重厚なBGMが鳴ります。
裁判官が木槌を叩くイメージが浮かびます。
もっとも、日本の裁判所では、よくある海外ドラマのように木槌をカンカン叩く場面は通常ありません。
でも、気分としては鳴っています。
心の木槌が。
訴状は怒りの自叙伝ではない
訴状を書くときに大事なのは、壮大な物語を書くことではありません。
自分の人生を第1章から語り始める必要はありません。
幼少期の思い出も不要です。
銀行員時代の苦労話も、たぶん不要です。
所長との出会いも、泣く泣く削ります。
必要なのは、基本的には、
- 誰に対して
- いくらを
- 何の理由で
- 支払ってほしいのか
です。
ここで、つい全部書きたくなります。
「そもそも相手はですね」
「これまでの経緯を申し上げますと」
「私がどれほど誠実に対応したか」
「相手の文章がいかに珍妙であるか」
「所長も眉をひそめておりまして」
気持ちは分かります。
しかし、訴状は怒りの自叙伝ではありません。
まずは請求を明確にする。
これが大事です。
裁判所に行くという謎の緊張感
訴状を出すために裁判所へ行く。
これも、なかなか独特の体験です。
普段の生活で、裁判所に行くことはあまりありません。
市役所や銀行ならまだ分かります。
スーパー、病院、郵便局。
このあたりは生活感があります。
しかし、裁判所。
名前だけで、少し背筋が伸びます。
入口に近づくだけで、何も悪いことをしていないのに、なぜか少し反省したくなります。
「あれ、私、何かしましたかね」
「いや、する側じゃなくて、されてる側なんですけど」
「でも緊張する」
この謎の緊張感。
裁判所の建物には、独特の空気があります。
コンビニのように、
いらっしゃいませー、訴状ですかー?
とはなりません。
受付で、こちらも少し真面目な顔になります。
普段より、声のトーンが一段下がります。
少額訴訟の訴状を提出したいのですが。
この一言を言うだけで、なんとなく人生のステージが一つ進んだ気がします。
実際には、書類を出すだけです。
でも、気持ちの上では、
ついに来たか。
です。
後ろで所長が腕組みしている幻覚が見えます。
少額訴訟で見えたこと
少額訴訟を経験して感じたのは、制度は意外と現実的にできている、ということです。
もちろん、慣れていない人にとって簡単とは言えません。
書類も必要です。
手間もかかります。
緊張もします。
しかし、本人でも制度にアクセスできる道はあります。
少なくとも、
弁護士に頼めないなら何もできない。
というわけではありません。
これは大きいと思います。
一方で、制度を使うには準備が必要です。
怒りだけでは足りない。
正しさの確信だけでも足りない。
相手が変だという感想だけでも足りない。
必要なのは、事実、金額、証拠、時系列、そして説明です。
このあたりは地味です。
しかし、地味なものほど強い。
本人訴訟の世界では、派手な決め台詞より、日付の入ったメールの方が強いことがあります。
法廷で、
異議あり!
と叫ぶ場面は、たぶんあまりありません。
それよりも、
甲第〇号証のこの部分です。
と言える方が強い。
地味です。
でも強い。
所長も、吠えるより無言で玄関に座り込む方が強いタイプです。
圧が違います。
まとめ:訴状は怖い。でも、書くことは整理でもある
訴状という言葉は怖いです。
でも、実際に必要なのは、まず請求を明確にすることです。
誰に対して。
いくらを。
何の理由で。
支払ってほしいのか。
そこを整理する。
訴状を書くことは、相手を攻撃するためだけの作業ではありません。
自分の請求を、自分で理解する作業でもあります。
何を求めているのか。
なぜ求められるのか。
どの資料で説明できるのか。
それを整理する作業です。
次回は、裁判所に伝わる文章と、伝わりにくい文章について書いてみます。
本人訴訟では、正しいことを言っているつもりでも、伝え方を間違えると、読み手に届きません。
文章は、武器にもなります。
そして、ときどき自爆装置にもなります。
実際に少額訴訟へ進むまでの経緯や、当時の判断については、note連載でも書いています。
このブログでは制度面・実務面を中心に整理し、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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