証拠には「担当部署」がある|給与明細さん、そろそろ出勤です

前回の記事では、スクショ30枚で勝った気になる前に、まず証拠を整理する必要がある、という話を書きました。

証拠は、集めただけではまだ山です。

スクショ。
PDF。
通帳コピー。
メール印刷。
手書きメモ。
ファイル名「IMG_4821」。
ファイル名「新しいドキュメント最終版本当の最終版2」。

これらをそのまま差し出しても、読む側は遭難します。

証拠は、集めたあとに役割を与える必要があります。

今回は、その話です。

目次

証拠は会社員みたいなもの

証拠は、会社員みたいなものです。

それぞれに担当部署があります。

給与明細には、給与明細の仕事があります。
通帳履歴には、通帳履歴の仕事があります。
メールには、メールの仕事があります。
就業規則には、就業規則の仕事があります。

ところが、こちらが興奮していると、全部まとめてこう言いたくなります。

ほら、これ全部見てください!
おかしいでしょう!

気持ちは分かります。

私も、机の上に資料を広げながら、所長に向かって何度も言いました。

「なあ、これ、おかしいよな?」

所長は黙っていました。
たぶん、おやつ以外の証拠価値には関心がなかったのだと思います。

しかし、裁判所や相談窓口に資料を出すときは、

全部見てください。

では弱いのです。

必要なのは、

この資料は、この事実を示すものです。

という説明です。

証拠に担当を割り振る

たとえば、未払い給料の話であれば、資料にはそれぞれ役割があります。

資料担当する役割
給与明細本来支払われるべき金額を示す
通帳・入金履歴実際に支払われたかどうかを示す
雇用契約書労働条件や給与条件を示す
メール・メッセージ相手方とのやり取りを示す
就業規則支払日や支払方法のルールを示す

こうして役割を決めると、証拠が急に働き始めます。

今まで床で寝転がっていた資料たちが、急に背筋を伸ばして出勤してくる感じです。

「給与明細、金額担当です」
「通帳履歴、入金確認担当です」
「メール、相手方発言担当です」
「謎の怒りスクショ、感情担当です」
「君は少し待機していてください」

感情担当は、たいてい後方支援です。

証拠説明書という「名札」

証拠には、名札をつけた方が親切です。

裁判では「証拠説明書」というものを作ることがあります。

難しく聞こえますが、要するに、

この証拠は、いつの、何の資料で、何を示すものです。

と説明する一覧表です。

たとえば、こんな感じです。

番号資料名作成日・取得日何を示すか
資料1給与明細〇月〇日支払われるべき給与額
資料2通帳入金履歴〇月〇日給与の入金がないこと
資料3会社からのメール〇月〇日支払方法についての相手方回答
資料4こちらからの返信〇月〇日振込を希望した経過

これがあると、読む側はかなり楽になります。

証拠説明書は、資料に付ける名札です。

名札がない資料は、初対面の親戚の集まりみたいなものです。

「えっと、どなたでしたっけ?」
「何の関係者でしたっけ?」
「あ、この人が金額担当の給与明細さんですか」
「こちらが支払われていないことを示す通帳さんですね」

名札があるだけで、急に場が落ち着きます。

証拠は、無言だと少し人見知り

証拠は、無言のままだと少し人見知りです。

こちらが紹介してあげる必要があります。

「こちら、給与明細さんです。本来支払われるべき金額を担当しています」
「こちら、通帳履歴さんです。入金がないことを黙って示します」
「こちら、相手方メールさんです。若干クセが強いですが、重要です」

紹介があると、読み手も安心します。

ここで大事なのは、証拠をただ出すのではなく、主張と結びつけることです。

たとえば、

最後の給料が支払われていない。

という主張があるなら、

  • 給与明細で「支払われるべき金額」を示す
  • 通帳履歴で「入金がないこと」を示す
  • メールで「会社とのやり取り」を示す

という形になります。

つまり、

主張

それを支える証拠

その証拠が何を示すか

この流れを作るのです。

裁判所や相談窓口は、宝探し会場ではありません。

この中に重要証拠があります。探してください。

という方式は、あまり親切ではありません。

こちらが地図を作る必要があります。

「ここに金額があります」
「ここに入金がないことが分かります」
「ここに相手の発言があります」
「ここは所長のおやつ領収書です」
「それは本件とは関係ありません」

関係ないものは、混ぜない。

これも大事です。

まとめ:証拠にも人事配置が必要

証拠は、集めるだけでは足りません。

それぞれに担当を割り振る必要があります。

給与明細は、金額担当。
通帳履歴は、入金確認担当。
メールは、相手方発言担当。
就業規則は、ルール担当。

そして、その証拠が何を示すのかを、読む人に分かるように説明する。

証拠説明書は、そのための名札です。

名札があると、資料が働き始めます。

逆に、名札のない資料を山ほど出すと、読む側は迷子になります。

証拠は、無言でも存在します。
でも、仕事をさせるには紹介が必要です。

実務編の次回は、スクリーンショットの話を書いてみます。

スクショは便利です。
早いです。
とりあえず助かります。

でも、それだけでフルコースにはなりません。

証拠界のインスタント食品には、インスタント食品なりの注意点があります。


実際の経緯や、証拠をどのように整理して少額訴訟へ進んだのかについては、note連載でも書いています。
このブログでは、制度面・実務面を中心に整理し、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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この記事を書いた人

金融の現場で30年以上、貸す・回収する・法的手続を扱う側として働いてきた主任研究員。腑に落ちないことをそのままにできない性分。当研究所ではDr.ホワイト所長の監督のもと、制度・書面・権利回復に関する実務知識を発信しています。

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