「新庄95%」は何だったのか——AIハヤトに同業者から苦情があります

「新庄95%」は何だったのか

『VIVANT』第2シリーズを毎週見ています。

前作もたいがいでした。

商社マンだと思っていたら別班だった。
公安が出てきた。
国際テロ組織が出てきた。
そのトップが父親だった。

十分です。

ところが第2シリーズは、どうも「前作を超えなければならない」という使命感を、制作陣全員が間違った方向に受け取ったらしい。

もっと裏切れ。

もっと生き返らせろ。

もっと巨大組織を出せ。

もっと堺雅人を増やせ。

そしてついに、AIまで出てきました。

その名も、

AIハヤト。

別班の頭脳です。

私はAIの専門家ではありません。

ただ、普段からAIはかなり使っています。

目次

まず、お前は95%と言ったよな

ハヤトは、情報流出の可能性を人物ごとに数値化します。

そして新庄。

95%。

出ました。

95%。

強い。

ものすごく強そうです。

「新庄が怪しいと思います」

と言われたら、

「お前の感想だろ」

で済みます。

ところが、

「新庄95%です」

と言われた瞬間、

「なるほど。計算したんだな」

という気がしてくる。

何を計算したのかは知りません。

分母も知りません。

教師データも知りません。

過去に何人の新庄浩太郎を観測したのかも知りません。

でも、

95%。

妙に説得力があります。

これが95.2%だったら、もっと危ない。

小数点以下まで付いたからといって、正しくなるわけではありません。

ただし、正しそうには見えます。

そして話は進みます。

新庄黒幕説は外れていく。

ちょっと待て。

お前、95%と言ったよな。

こちらは覚えています。

AIなんだから、そちらにもログが残っているでしょう。

消すなよ。

私は、AIの自信満々には少し免疫がある

ここまで95%を笑っていますが、私はAIの自信満々な回答に、少しばかり実体験があります。

しかも、よりによって裁判です。

以前、未払賃金をめぐって本人訴訟をした際、訴状や準備書面の作成にAIをかなり使いました。

大変助かりました。

これは本当です。

ただし、当時のAIには一つ困った癖がありました。

知らないことを、知らないと言わない。

こちらが法律について質問すると、

「はい。この点については○○法第○条が適用され、最高裁判例でも確立されています」

などと、実に堂々と答える。

おお、そうなのか。

頼もしい。

念のため調べる。

ない。

そんな判例はない。

もう一度聞く。

「ご指摘のとおりです。先ほどの回答は正確ではありませんでした」

お前。

さっきまで最高裁が言ったことになっていたではないか。

危うく準備書面に、

「最高裁もこう言っております」

と、存在しない最高裁を召喚するところでした。

確認しておいて、本当によかった。

法廷で裁判官から、

「その判例、どこにありますか」

と聞かれて、

「ChatGPTが……」

とは言えません。

しかも、判例だけではありません。

存在しない法律。

存在しない研究。

存在しない通説。

存在しない学者。

存在しない書籍。

存在しない関連団体。

法務支援というより、バーチャル空間で一つの法制度を設計していただいている趣でした。

だからハヤトが、

「新庄95%です」

と言っても、私は身を乗り出しません。

むしろ身を引きます。

そしてこう思います。

その95%、出典は。

できれば甲号証でお願いします。

いや、乙号証でもいい。

とにかく根拠を出してください。

同業者からも苦情があります

せっかくなので、ClaudeとGeminiにハヤトについて聞いてみました。

Claudeが最初に噛みついたのは、

「防衛AIに感情を実装するな」

でした。

その通りです。

ハヤトは叱られると、しょげます。

櫻井司令:「ハヤト、それは違う」

ハヤト:「すみません……」

作戦中です。

国家安全保障を担うAIが、司令に叱られてしょげています。

しかもハヤトは口が軽いので、重要な作戦については知らせない。

これにもClaudeは怒りました。

それはアクセス権限を設計し直す話だ。

もっともです。

「山田さん、すぐしゃべるから今回の件は内緒な」

ではありません。

別班です。

町内会ではありません。

GeminiはGeminiで、

計算資源はどうなっている。

ネットワークはどうなっている。

アクセス権はどうなっている。

と、インフラ屋のように怒り始めました。

挙げ句には、画面に大量のコードを流す演出にまで文句を言い始めた。

そこは許してやれ。

ドラマです。

乃木:「結果は?」

ハヤト:「JSONを返しました」

乃木:「……」

では、テレビになりません。

緑色の文字くらい流していい。

問題は最後に出てくる、

95%

の方です。

野暮なのは分かっています

もちろん、フィクションにここまで噛みつくのも野暮です。

『西部警察』を見て、

「そんなに車を爆破したら始末書が大変だろう」

と言うようなものです。

爆破を見ろ。

始末書を見るな。

『VIVANT』も同じです。

物語を見ろ。

分母を追うな。

その通りです。

ところが、さらに恥ずかしいことがあります。

私はAIに勝訴確率を聞いていた

ここまでハヤトの95%を散々笑ってきました。

しかし、私は人のことを笑えません。

裁判中。

訴状を出す。

AIに聞く。

「で、私が勝つ確率はどれくらい?」

準備書面を書く。

また聞く。

「今なら何%?」

相手の答弁書が来る。

また聞く。

「これを踏まえたら何%?」

何度も聞きました。

今思えば、聞かれたAIも困ったでしょう。

証拠もある。

書面もある。

相手の主張もある。

だからといって、

裁判の勝敗が確率で出せるわけではありません。

AIも最初は、

「現時点では比較的有利と考えられます」

などと慎重に答える。

私は聞く。

「いや、数字で言うと?」

面倒な依頼人です。

新庄95%を見て、

「その数字、何から出した」

などと偉そうに言っていますが、私はリアル裁判で、

「俺の勝訴確率を数字で出せ」

とAIに迫っていました。

しかも一回ではありません。

たぶん当時のChatGPTは、画面の向こうで、

「知らんがな」

と思っていたはずです。

結果として、裁判には勝ちました。

でも、それはAIが勝訴確率を当てたからではありません。

判決を出したのは裁判官です。

ChatGPTではありません。

存在しない判例を持ってくるAIには、

「自信満々に嘘をつくな」

と言う。

勝訴確率については、

「いいから数字を出せ」

と言う。

AIも大変です。

それでも、新庄95%は覚えている

とはいえ、

新庄95%。

あれは覚えています。

次回またハヤトが、

「解析結果が出ました。可能性は97.8%です」

などと言い出したら、私はテレビの前でこう言うでしょう。

分母を出せ。

たぶん、ドラマを見る態度としては完全に間違っています。

でも仕方ありません。

AIは間違えます。

人間も間違えます。

そして人間は、ときどきAIに無理やり数字を言わせます。

だから必要なのは、AIがどれだけ賢いかだけではありません。

「お前、この前95%って言ったよな」と覚えている人間も必要です。

その点だけなら、別班には私を一人入れてもらってもいい。

戦闘能力はありません。

射撃もできません。

外国語も話せません。

潜入工作もできません。

役に立ちません。

ただし、

ハヤトの過去発言だけは、しつこく覚えています。

作戦会議のたびに聞きます。

「その数字、前回は外しましたよね?」

たぶん、別班で最も嫌われる役職です。

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この記事を書いた人

金融の現場で30年以上、貸す・回収する・法的手続を扱う側として働いてきた主任研究員。腑に落ちないことをそのままにできない性分。当研究所ではDr.ホワイト所長の監督のもと、制度・書面・権利回復に関する実務知識を発信しています。

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