少額訴訟を甘く見てはいけない|裁判ライト味だと思ったら普通に裁判だった

前回の記事では、証拠を集めるだけでは足りない、という話を書きました。

スクショを30枚集めても、それだけではまだ勝利のファンファーレは鳴りません。
証拠には「担当部署」があり、名札をつけ、仕事をさせる必要があります。

給与明細さん、金額担当。
通帳履歴さん、入金確認担当。
メールさん、相手方発言担当。
謎の怒りスクショさん、感情担当。
君は後方支援で待機。

さて、証拠を並べ、時系列表を作り、だんだん自分の中で事実関係が見えてくると、次に頭に浮かぶ言葉があります。

少額訴訟。

響きだけ聞くと、なんとなく簡単そうです。

「少額」
「訴訟」

少額と付いているので、どこか親しみやすい。
スーパーの「少量パック」みたいな雰囲気があります。

しかし、後ろに付いているのは、しっかり訴訟です。

少量パックの顔をしていますが、中身は裁判です。
かわいい顔をした柴犬だと思って近づいたら、実は法廷犬だった、みたいなものです。

目次

少額訴訟は「プチ裁判」ではない

少額訴訟という言葉から、なんとなくこう想像するかもしれません。

少し小さめの裁判。
やさしめの裁判。
お試し版の裁判。
裁判ライト。
裁判ミニ。
裁判チョコ味。

しかし、これは危険です。

少額訴訟は、たしかに通常の訴訟より手続が簡略化されています。
でも、裁判であることに変わりはありません。

裁判所に訴状を出します。
相手方に書類が送られます。
期日が決まります。
裁判官の前で話します。
判決も出ます。

つまり、外見はコンパクトでも、ちゃんと裁判です。

「少額訴訟」という名前のせいで油断しそうになりますが、気分としては、

小型犬だと思っていたら、妙に目つきの鋭い番犬だった。

くらいに思っておいた方がいいです。

所長も小型犬ですが、権利意識は大型犬です。
おやつの未払いには、即時抗議です。

私が少額訴訟を考えた理由

私の場合、退職後の最後の給料が支払われない、という出来事がきっかけでした。

最初から裁判をしたかったわけではありません。

普通に支払われれば、それで終わりです。
こちらも忙しい。
所長の散歩もある。
人生には、できれば裁判所以外に行きたい場所もたくさんあります。

しかし、やり取りを重ねる中で、だんだんこう思うようになりました。

これは、話し合いだけでは無理かもしれない。

そして、時系列を整理し、証拠を確認し、請求額を計算し、最終的に少額訴訟という手続を検討することになりました。

ここで大事なのは、少額訴訟は怒りの必殺技ではないということです。

腹が立った。
よし、訴える。
ドン。

ではありません。

それをやると、気分は必殺技でも、実務上は自爆ボタンになる可能性があります。

少額訴訟を考える前に必要なのは、たとえば次のようなことです。

  • 請求したい金額がはっきりしていること
  • 相手方が誰か分かっていること
  • 支払われていない事実を説明できること
  • それを支える資料があること
  • これまでの経過を時系列で説明できること

つまり、少額訴訟は、怒りをぶつける場所ではなく、整理した事実を持ち込む場所です。

怒りは燃料。
訴状は車体。
証拠はタイヤ。
時系列表は地図。
所長は後部座席で監督。

燃料だけで走ろうとすると、ただの火事です。

少額訴訟のメリット

体験者目線で見ると、少額訴訟にはたしかにメリットがあります。

まず、手続が比較的シンプルです。
通常の訴訟よりも、本人で取り組みやすい面があります。

また、金額が大きくないトラブルについて、泣き寝入り以外の選択肢になり得ます。

「この金額で弁護士に依頼するのは難しい」
「でも、だからといって諦めるのも納得できない」
「相手にきちんと外部の手続で向き合ってほしい」

そういう場合に、少額訴訟は一つの選択肢になります。

私の場合も、金額だけを見れば、経済合理性としては微妙な面がありました。

ただ、問題は金額だけではありませんでした。

最後の給料が支払われない。
説明や対応に納得できない。
こちらが受け取るための普通の道筋が、なぜか迷路化していく。

そうなると、金額の大小とは別に、

これは記録されるべき出来事ではないか。

という感覚が出てきます。

少額訴訟は、その記録を公的な手続に乗せる手段にもなります。

もちろん、裁判所は日記帳ではありません。

今日も相手が変でした。

と書いて提出する場所ではありません。

しかし、請求権があり、金額があり、事実があり、証拠があるなら、制度を使って整理することはできます。

まとめ:裁判ライト味でも、中身は裁判

少額訴訟は、名前だけ見ると軽く見えます。

でも、実際にはちゃんと裁判です。

訴状を出す。
相手に書類が届く。
期日が決まる。
裁判官の前で話す。
判決も出る。

つまり、裁判ライト味だと思ったら、普通に裁判だったわけです。

少額訴訟は、泣き寝入りしないための選択肢になり得ます。

ただし、怒りの必殺技ではありません。
整理した事実と証拠を持ち込む手続です。

次回は、少額訴訟の限界と、本人訴訟のワンオペ感について書いてみます。

原告、事務員、コピー係、郵便係、メンタル担当。
全部自分です。

ブラック企業もびっくりのワンオペ体制でした。


実際に少額訴訟へ進むまでの経緯や、当時の判断については、note連載でも書いています。
このブログでは制度面・実務面を中心に整理し、noteでは当時の経緯や心情も含めて記録しています。

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この記事を書いた人

金融の現場で30年以上、貸す・回収する・法的手続を扱う側として働いてきた主任研究員。腑に落ちないことをそのままにできない性分。当研究所ではDr.ホワイト所長の監督のもと、制度・書面・権利回復に関する実務知識を発信しています。

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